投稿日:2018-06-14 | 最終更新日:2024-06-16

エメラルドタブレットとは?

錬金術についての記事に引き続き、こちらの「錬金術:おおいなる神秘」を読んでいて発見があった。錬金術師たちは作業を始める前にエメラルドタブレットの言葉を唱えるらしい。

ところで、オカルト・スピリチュアル界隈では良く知られた「エメラルドタブレット」とは何か、簡単に解説したい。本当かどうかは分からないが、誰かが見つけたエメラルドの板に書かれていた文章のことを指す。解説とか言ってさっそく引用させてもらう。

古代のものとの主張があるが、6世紀から8世紀の間に書かれたアラビア語の作物と信じられている。このテクストの出典としうる最古のものは、9世紀前半に編纂されたアラビア語の書物 Kitāb sirr al-ḫalīqa (『創造の秘密の書』)、別名 Kitāb al-`ilal (『諸原因の書』)である。この書物はバリーナース(バリーヌース、もしくは擬テュアナのアポロニオス)に帰せられる。この書においてバリーナースは『緑玉板』を古代のヘルメス的知恵に仕立て上げている。かれはテュアナにあるヘルメス像の足下の地下納骨堂で文書を発見し、その納骨堂内では黄金の玉座に即いた古遺体が緑玉の銘板を手にしていた、と読者に語るのである。

エメラルド・タブレット(Wikipedia)

エメラルドの板(タブレット)は現存しておらず、そこに書かれていた言葉だけが今に伝えられている。それゆえ、オーパーツとも言われる。

エメラルドタブレットを書いた人

三重に偉大なヘルメス・トリスメギストス

HermesTrismegistusCauc.jpg
By user:Tomisti[1], パブリック・ドメイン, Link

エメラルドタブレットに書かれている文章は錬金術の父ヘルメス・トリスメギストスの言葉とされている。ヘルメス思想の元ともなった「ヘルメス文書」の著者であり賢者である。そして錬金術の始祖であり、錬金術師たちの神的存在。実在したとも信じられている人物であるけれど、真相はどうなのでしょう。

三重に偉大、三倍偉大の意味合い

ヘルメス・トリスメギストスは「三重に偉大(三倍偉大)なヘルメス」と呼ばれている。「三重(三倍)」の意味とはなんなのか。簡単に引用させてもらうが諸説あるようなので、詳しくはウィキペディアへ。

ギリシア神話のヘルメス神と、エジプト神話のトート神がヘレニズム時代(ギリシア主義時代)に融合し、さらにそれらの威光を継ぐ人物としての錬金術師ヘルメスが同一視され、ヘルメス・トリスメギストスと称されるようになった。それら3つのヘルメスを合わせた者という意味で、「3倍偉大なヘルメス」「三重に偉大なヘルメス」と訳される(3人の賢者〔ヘルメス〕、三重の知恵のヘルメスという伝説)。

ヘルメス・トリスメギストス(Wikipedia)

わたし的には、相反するものを統合する存在として「三重に偉大」と呼ばれるのだと考えている。ヘルメス神(男)とトート神(女)の威光を継ぐヘルメス。相反するもの(陰と陽)を持っているのは、父と母から生まれた一者(ヘルメス)なのである。

3という数字、三重、三倍とは、宇宙の真理。そのあたりの話は他の記事でもしているので、関連記事をどうぞ。

関連記事:1と2と3(よーさんの「妄想かいてくよー」の解説をする その4)

エメラルド・タブレットの内容についての真相

さて、肝心なエメラルドタブレットの内容について。比較的短い文章であるが、その中でも有名な一文はこちら。これは、この宇宙を表現した絶妙な一文であると思う。

下にあるものは上にあるもののごとく、上にあるものは下にあるもののごとし

エメラルドタブレットの全文とその内容について詳しくはこのあとに解説するとして、エメラルドタブレットに書かれた文章は一体何を表現しているのか?まずはこの引用を読んで欲しい。

原文は寓意や隠喩が多く多様な解釈が可能で、卑金属を金や宝石に変えるように、人間の魂を「大地から天へと」と昇華させていく修道過程、「賢者の石」の秘密を読み解くことができるともされる。

エメラルド・タブレット(Wikipedia)

錬金術師たちは「賢者の石」の完成を目指していた。それは卑金属を金に変化させる技のことでもあるし、精神的な成長についての過程でもある。

卑金属を金に変化させることは、自然に存在する素材から人間にとって有益なものを作り上げること。それは現実で有益になる科学などである。精神的な成長とは、世界にとって有益な考え方を持てるような人間になること。

「賢者の石」の完成とは、人間がより良く生きることができる世界を作り上げること、その世界を生きるための健全な精神を持つこと、この2つの意味が二重にかかっている。つまりエメラルドタブレットには、現実と精神を同時に完成させる方法が書かれている。そしてその2つを同時に完成させるのは「一者」と呼ばれる者。二重を完成させるのは三重に偉大な存在である、私たち人間一人一人なのである。

エメラルドタブレット全文とわたし的訳 2018年度版

ということで、エメラルドタブレット全文と、それに対応するわたし的解釈を紹介します。上段の引用が原文、グレーの下段が対応するわたしの考えた訳。原文は「錬金術:おおいなる神秘」から引用させていただきました。

(※この訳は2018年に書いたものです。この下に2021年に追記したものがあります。)

これは偽りのない真実、確実にして、このうえなく真正なことである。唯一なるものの奇跡を成し遂げるにあたっては、下にあるものは上にあるもののごとく、上にあるものは下にあるもののごとし。

錬金術:おおいなる神秘

これはまぎれもないこの世界の真実である。この宇宙の成り立ちを理解するには、この世界にある一番小さなものは一番大きなものと同じということを理解すること。その逆も同じ。

万物が一者から一者の瞑想によって生まれるがごとく、万物はこの唯一なるものから適応によって生じる。

錬金術:おおいなる神秘

この世界にあるものは一人一人の意識から生まれる。それぞれの意識がそれぞれの世界を作っている。

太陽がその父であり、月がその母である。風はそれを己の胎内に運び、大地が育む。これが全世界の完成の原理である。その力は大地に向けられる時、完全なものとなる。

錬金術:おおいなる神秘

この宇宙は太陽と月のような対局するもので創られている。風が流れを作り土がそれを育む。そうして、世界を完成へと導く。(ここの訳はいまいち。)

地上から天上へと登り、ふたたび地上へと下って、上なるものの力と下なるものの力を取り集めよ。こうして汝は全世界の栄光を手に入れ、すべての暗闇は汝から離れ去るだろう。

錬金術:おおいなる神秘

何度も生まれ変わり、目に見える世界と目に見えない世界それぞれを受け入れ、そのつながりを正しく理解したとき、初めて暗闇から解放される。

火から土を、粗雑なるものから精妙なるものを、ゆっくりと巧みに分離せよ。これはあらゆる力の中でも最強の力である。

錬金術:おおいなる神秘

この世界にある、あらゆるものを研究し、技術や科学を発展させよう。人間を超えた力が生まれる。

なぜなら、それはすべての精妙なものに打ち勝ち、すべての個体に浸透するからである。

錬金術:おおいなる神秘

それは、自然のようにゆっくりと世界へ浸透し全ての意識をまた一つへと戻す役割を果たす。

ーここから2021/1/12追記ー

エメラルドタブレット全文とわたし的訳 2021年度版

エメラルドタブレットの内容について、2021年の今、もっと深く解説できるようになったので追記してみる。今回はもっと具体的に訳していこうと思う。

二元性について

これは偽りのない真実、確実にして、このうえなく真正なことである。唯一なるものの奇跡を成し遂げるにあたっては、下にあるものは上にあるもののごとく、上にあるものは下にあるもののごとし。

錬金術:おおいなる神秘

『下にあるものは上にあるもののごとく、上にあるものは下にあるもののごとし』→2018年、わたしは『この世界にある一番小さなものは一番大きなものと同じ』と訳しているけれど、つまりは、小さい=大きい・天(宇宙)=地(地球)ということである。

私たちの世界は二元性に支配されている。二元性のものを挙げていくとキリがないけれど、一番わかりやすいものは人間の性別で、男と女。もっと大きなもので言えば、太陽と月。日中は太陽が私たちを照らして、夜になると月が私たちを照らす。

小さなもので言えばプラスとマイナス。物質を細かく分けていくと原子になる。原子はプラスの電荷をもつ原子核とマイナスの電荷をもつ電子で成り立っている。

わたしたちの世界は複雑に思えるけれど、不思議なことに、大きなものからとても小さなものまで二元・二極に支配されている。この基本を忘れずにいると応用が効くのである。大きなことを考えるときに小さなことが参考になったりする。逆もしかり。

唯一なるものが創り出すたったひとつの世界

万物が一者から一者の瞑想によって生まれるがごとく、万物はこの唯一なるものから適応によって生じる。

錬金術:おおいなる神秘

『唯一なるものの奇跡を成し遂げるにあたっては…』→奇跡というのは、「唯一なるもの」が「真実」を知ることである。

『万物が一者から一者の瞑想によって生まれるがごとく』→この世界に存在するもの全ては一人の人間から始まり、一人の人間が想像したからこそ生まれている、ということ。

『万物はこの唯一なるものから適応によって生じる。』→「唯一なるもの」というのは、「たった一人の自分」のことを強調している。実は、世界に存在している様々な「もの」「こと」は「自分」という一者から発生しているのである。

どういうことかと言うと、例えば、この記事を読んでいる「あなた」がこの記事を書いている「わたし」という存在を生み出しているのである。全ての目に見える「もの」や「こと」は、世界にたった一人の「自分」が生みの親であるということ。

つまり、それぞれの人間の個の意識が、目に見えている世界をそれぞれ創り出しているのである。「わたし」と「あなた」の世界は同じもののように思えるけれど、まったくの別物なのである。

関連記事:オートポイエーシス

太陽と月の子供

太陽がその父であり、月がその母である。風はそれを己の胎内に運び、大地が育む。これが全世界の完成の原理である。その力は大地に向けられる時、完全なものとなる。

錬金術:おおいなる神秘

『太陽がその父であり、月がその母である。』→万物を創造している「唯一の自分(人間)」は太陽と月の子供である。太陽というのは陽の力で「強い心」を表す。月は陰の力で「受け入れる心」を表す。つまり私たち人間は生まれながらに陽と陰2つの力の元を備えているということ。

『風はそれを己の胎内に運び、大地が育む。』→風が表すものは時間の流れ。時間の流れが存在するからこそ私たち人間は成長していく。子供から大人への時間の流れ、人間全体の大きな歴史の流れなど、偶然とも必然とも言える様々な出来事を体験する。

大地というのは人間の精神のこと。万物が織り成す世界の動向の中で、自然や社会や他者との触れ合いの中で、私たちは「強い心」と「受け入れる心」を自分自身の中に取り込んでいく。

『これが全世界の完成の原理である。』→人間(世界でたった一人の自分)はそうやって学びながら、徐々に完成を迎える。完成とは「真理」を知ること。目に見える世界と自分自身の精神は完成への準備を同時に整えていく。全世界が完成する、というのは全世界が「真理」を知る瞬間でもある。

『その力は大地に向けられる時、完全なものとなる。』→人間(世界でたった一人の自分)が学びの中で精神を成長させて「強さ」と「受け入れること」を自分自身の中に十分に取り込んだ時代がやってくる。その精神の成長を表に出す時が完全になる時である。完全になる時とは、自分自身が「創造主」であることに気がつく瞬間でもある。

関連記事:「TENET」オカルト考察 その1

暗闇から抜け出す方法

地上から天上へと登り、ふたたび地上へと下って、上なるものの力と下なるものの力を取り集めよ。こうして汝は全世界の栄光を手に入れ、すべての暗闇は汝から離れ去るだろう。

錬金術:おおいなる神秘

『地上から天上へと登り、ふたたび地上へと下って、上なるものの力と下なるものの力を取り集めよ。』→地上から天上へと登ることは「受け入れる心」を完全に手に入れること。そこからまた地上へと下ることは「強い心」を完全に手に入れること。

その2つの力を獲得していれば、目に見えない世界(上なるもの)と目に見える世界(下なるもの)それぞれから力を受け取ることができ、それは着実に自分自身に蓄積されていく。

『こうして汝は全世界の栄光を手に入れ、すべての暗闇は汝から離れ去るだろう。』→上なるもの・下なるもの、2つのものから力を集め続けていけば、いずれ世界を変える力を手に入れることができる。そして精神は暗闇から解放されることになるだろう。

最強の力は希望

火から土を、粗雑なるものから精妙なるものを、ゆっくりと巧みに分離せよ。これはあらゆる力の中でも最強の力である。なぜなら、それはすべての精妙なものに打ち勝ち、すべての個体に浸透するからである。

錬金術:おおいなる神秘

『火から土を、粗雑なるものから精妙なるものを、ゆっくりと巧みに分離せよ。』→火というのは怒りのことである。土というのは、心のことであり、精神の土台となるものでもある。

(※2024/6/11 土の訳ついて修正。もちろん、土は「心・精神の土台」でもあるのだけれど、エメラルドタブレットにおいては「現実」という訳の方が適切でしたのでこの一文は削除させていただきます。『現実の事象を受けて発生した心の中の怒り』と書き換えたい。)

怒りという単純な感情を基本(二元性)に基づいて紐解いていくと、人間の根底にある複雑な精神が顕(あらわ)になる。怒りに翻弄されることなく、ゆっくりと、人間の精神を解き明かすことが必要である。

『これはあらゆる力の中でも最強の力である。』→火から取り出した、人間の心の根底にあるもの。それは「希望」である。怒りから見出した「希望」こそが最強の力である。

『なぜなら、それはすべての精妙なものに打ち勝ち、すべての個体に浸透するからである。』→「希望」はこの世界に存在するありとあらゆるものに打ち勝つもの。人間が本当に求めているものは、自分自身の内に存在する「希望」である。だからこそ、その最強な力は「全ての個体(人間)」に受け入れられることになる。

最初に戻る

世界はそのように創造された。驚くべき適応はこのようにして起こる。こうして私は全世界の哲学の3つの部分を持つがゆえに、ヘルメス・トリスメギストスと呼ばれる。私が太陽の働きについて述べるべきことは、以上である。

錬金術:おおいなる神秘

『世界はそのように創造された。驚くべき適応はこのようにして起こる。』→たった一人の自分(人間)の内に存在する「希望」が他の個体全て(他者)に受け入れられた時、新しい世界が創造されるのである。世界の創造とは、万物が創造される初めの一歩。つまり、その瞬間に万物を創造する「唯一なるもの(自分)」が生まれる。再び最初に戻るのである。

以上が、2021年のわたしが訳したエメラルドタブレットの全貌。2018年には最後の文章を載せていなかったので、追加してみた。

ーここから2024/6/11追記ー

エメラルドタブレットの言葉は宇宙の真理

2018年、2021年にわたし的訳を書いたけれども、2024年さらに解説していこうと思う。今回は訳というよりか内容のまとめ。これで最後にしたいけれど、また追記するかもしれない。

人間の最終目的について

前の章にこのように書いたけれど『現実で作り上げた有益なもの』とは、今私たちが生きているこの世界に存在する全ての物や事。上にあるものと下にあるもの、天と地、世界と自分、善と悪。このような対比(違い・相対)がある世界のことである。

私たちはこの世界に存在するものを善と悪に分ける。けれども、『善も悪もどちらも健全な精神で使いこなすことができるようになる』というのが人間が目指す最終的な目標である。悪を使いこなすのが難しいのであるが。

この対比のある世界を健全なる精神で生きていくことを最終目的(完成)とし、自分自身がその完成に到達したことを確信する時が世界の成り立ちの「終わり」となる。

エメラルドタブレットには、世界の「始まり」から「終わり」までの過程が書かれている。「始まり」があって「終わり」があるから世界がある。

世界の始まりと終わりの間にある、精神の成長期間

精神の成長と現実の成長は連動している

一人の人間が生まれ、死ぬまで成長すること。対比のある世界の中で、相対するものから様々なことを学んでいくのが人間。精神(上なるもの)の成長は、目に見える世界(下なるもの)の成長に連動している。つまり自分の精神は目の前にある世界がそのまま表現している。

人間が暗闇から抜け出せないと感じる時は、精神(上なるもの)と現実(下なるもの)の繋がりを忘れてしまっている。目の前にある現実に暗闇を感じるなら、自分自身の精神がそうさせているだけ。暗闇から抜け出したいのならば、精神と現実の繋がりを思い出さなくてはならない。

アイザック・ニュートンによるエメラルドタブレットの訳を引用したい。

地を火から、微細なものを粗大なものから、非常なる勤勉さで丁寧に分離するがよい。
それは地から天に昇り、ふたたび地へと降って、上位のものと下位のものの力を受けとる。
この方法によってそなたは全世界の栄光を得、それによって一切の無明はそなたから去るであろう。
その力はすべての力を凌ぐ。それはあらゆる精妙なものにも勝り、あらゆる堅固なものをも穿つからである。
かくて世界は創造された。

エメラルド・タブレット(Wikipedia)

『粗大なものから微細なものを分離すること』。つまり世界(粗大なもの)をよくよく観察することで要素を分けていくことが、精神の成長過程となるということ。

『非常なる勤勉さで丁寧に観察すること』は、目に見えない自分の心(精神)と、目に見える現実どちらも観察すること。

『天に昇りふたたび地へと降ること』は、現実(地)→精神(天)・精神(天)→現実(地)というふたつのルート。現実が自分の心(精神)を作り、また自分の心(精神)が現実を作っているという、精神と現実の繋がりが双方向であること。

成長の始まりと終わり

エンペドクレスという古代ギリシアの哲学者がいる。「火・風・水・土」4つの要素がこの世界の物質を作っていると考えた、四元素説の提唱者である。この考え方は後に錬金術にも影響を与えている。エンペドクレスはこの四元素が「愛」で結合し「僧」で分離する、と面白いことを言っている。

宇宙のプロセスは、「愛の完全支配期 → 憎の伸長期 → 憎の完全支配期 → 愛の伸長期」の4つの段階が円環的な周期をなしてめぐっており、2つの伸長期には、四元素は可視的な事象・生物となって生成し消滅するとされた。

四元素(Wikipedia)

また、エンペドクレスは宇宙が4つの時期を繰り返していると考えていた。愛と憎しみの繰り返し。以下に引用させてもらったように、この繰り返しで永遠に宇宙が続いているという。

  1. 愛が完全に支配する時期:四根は愛によって集合し、四根が渾然一体となって球体(スパイロス)となっている状態。愛は球体の内部に、憎しみは球体の外殻部にある。→パルメニデスの「球(在るもの)」の影響か。
  2. 憎しみが侵入する時期:憎しみが球体内部に侵入し、愛は外殻部に脱出する。
  3. 憎しみが完全に支配する時期:四根は離散し、火は火、空気は空気、水は水、土は土同士で集結して、この順に四層の同心球的な状態となる。愛は外殻部のまま。
  4. 愛が侵入する時期:愛が球体内部に侵入し、憎しみは球体の外殻部に脱出する。
創造法編集社

宇宙の成り立ちに「愛」とか「憎しみ」など関係あるのだろうか?わたしは関係あると言い切りたい。現実と精神が連動しているということは、そういうことなのである。心が現実を作るのだから。

アリストテレスの元素理論(『気象論』『生成消滅論』等)やアテナイのアンティオコスの天体と四元素の図式によると、火と水が対極、風と土が対極となる。また属性は別の属性を生じて循環する関係となり、4つの元素の間には「プラトンの輪」と呼ばれる一連の周期的循環現象があり、火は風を助け(凝結して空気(風)となる)、風は水を助け(空気(風)は液化して水になる)、水は土を助け(水は固化して土になる)、土は火を助ける(土は昇華して火になる)。

四元素(Wikipedia)

さらにこの引用にある「プラトンの輪」というものは、火→風→水→土→また火へと変化し循環が続くもの。物質が変化するのだから、精神も形を変えながら成長し循環していく。喜怒哀楽とはまさに精神が変化をすること。

つまり「プラトンの輪」の循環は、精神の成長段階とも一致する。火から始まって土が終わりであるが、一番の難関といえば「土から火」という段階である。それは「終わり(土)」からまた「始まり(火)」に戻り循環する段階のこと。

『火から地(土)を分離すること』とは、その逆の流れ「始まり(火)」から「終わり(土)」となる。時間を逆の流れにすることによって、どのように世界が始まったのか?を紐解く方法が『火から地を分離すること』なのである。

人間にとって、世界は既に始まっている。けれど「終わり」は来ていない。だから『火から地を分離すること』で時間を戻す。世界の「始まり(火)」に戻り、さらにその前の「終わり(土)」へ。精神の中だけでそれは実行可能である。

2018年、わたしは「火」を「怒り」と訳した。エンペドクレスが「憎しみ」が四元素を分離させ消滅させると言うように、わたしは「怒り(憎)」がこの世界を終わらせ、また再生もさせると知った。そして、世界の「終わり」と「始まり」が同じ地点にあることを知った。

栄光を手にする

急に時間の話をしたけれど、時間の矢は過去から未来へと進む。それは「精神が現実を表現していること」と同じ。また未来から過去への時間の逆行は「現実が精神を表現していること」と同じ。

それは地から天に昇り、ふたたび地へと降って、上位のものと下位のものの力を受けとる。
この方法によってそなたは全世界の栄光を得、それによって一切の無明はそなたから去るであろう。

地から天へ・天から地へ、現実から精神・精神から現実へ。二つの流れを行き来することで、力を蓄えることができる。力とは理解である。

その力はすべての力を凌ぐ。それはあらゆる精妙なものにも勝り、あらゆる堅固なものをも穿つからである。
かくて世界は創造された。

すべての力を凌ぐもの。2021年、わたしはその力を『怒りから見出した希望』と訳した。「怒り」の正しい理解から「希望」を得ることができる。それが世界が創造される瞬間、つまり「始まり」と「終わり」が同じ地点にあることを理解する瞬間なのである。

その地点はどこにあるのか?その地点は「唯一なる者・一者・三重に偉大な者」の中にある。プラトンの言う「コーラ(場)」ってやつです。つまり、宇宙は自分から始まって、自分で終わっている。この世界の存在全てが自分から始まり自分で終わっているのだ。それがこの宇宙の真実。

時間を逆行して世界の始まりを知ること、世界を始める正しい怒りについては、関連記事をどうぞ。

関連記事:二つの時間の流れが因果を生む

関連記事:怒りについての記録

関連記事:この世界の真実

ー2024/6/11追記ここまでー

3つの智慧を持つもの

ヘルメス・トリスメギストスは3つの智慧を持っている。1つ目は「強い心」について。2つ目は「受け入れる心」について。3つ目は「希望」について。この3つが「唯一なるもの」の中に揃ったときに、初めてエメラルドタブレットの意味がわかるようになるのかと思う。

そして重要なのは、これら3つ全てが太陽の働きによって現れること。陽の力は「強い心」。3つの智慧の中で一番獲得するのが難しいものであり、全ての始まりでもある。

今回訳した内容については、別の記事でもちょこちょこ説明してたりするので、ぜひ読んでみてほしい。

賢者の石を作るためにすること

大いなる作業とは

最後に、エメラルドタブレットの原文を引用させていただいた「錬金術:おおいなる神秘」から、私たち人間にとって大切な教訓となる言葉を見つけたので紹介する。

そして、物質を形作っているさまざまな要素を分解し、分類してから、もう一度調和のとれた形で統一し直さなければならない。これが物質を賢者の石に変える霊化作業である。

錬金術:おおいなる神秘 P.77

これは錬金術師たちが「賢者の石」を完成させるために行う大いなる作業の方法である。大いなる作業とは「人間がミクロコスモスの中で造物神(デミウルゴス)となるために必要な行為全体のことなのである。(P.76)」とのこと。

分解し、分類すること

世界には様々な問題がある。相変わらず人間たちは社会問題について議論し、争っている。それら問題を解決する方法を「大いなる作業」は教えてくれている。

複雑に思える全ての「できごと」や「ものごと」は、とても単純な構造になっている。しかし、人間は新しい言葉を作り過ぎてしまった。複雑で難解な言葉のせいで脳内の整理整頓が出来ていない。

シンプルな言葉で置き換えてみたり、昔からある言葉だけで考えてみると、複雑な問題は実はすごく簡単な構造になっていることに気がつくのである。これが「要素を分解し、分類」すること。全ての「できごと」「ものごと」は引き算していくと最終的に「二元・二極」になってしまうのである。

最近は意識高めな横文字を使う人が増えていたり、哲学マニアな人々は難しい言葉を使いたがる。それが問題をややこしくしていることに気がついてほしい。

賢者の石を見つけたいのならば、最初に戻ることが肝心。人間は複雑さに慣れ、複雑さに支配されてしまっている。カオスから抜け出そう。

カオスから抜け出し、頭の中で調和し、統一のとれたものとして表現する。それが出来た時、わたしたち人間はやっと「造物神(デミウルゴス)」に成れる。「唯一なる自分」が創造主であることを信じるには、大いなる作業(探求と忍耐)が必要なのである。

※2024/06/11ちょっと追記
グノーシス主義において「造物神(デミウルゴス)」は、偽の神・傲慢な神などと呼ばれている。悪の存在する不完全な世界を作る神であるから。けれども、世界の「始まり」と「終わり」を知りたいのならば「悪」が絶対に必要。「悪」に向き合い「怒り(憎)」を出そう。今は「憎の完全支配期」かもしれない。